第1章|なぜ大学の広報戦略はバラバラになるのか
大学の広報活動において、「施策はやっているのに成果が出ない」「担当部署ごとにバラバラに動いている」といった課題は非常に多く見られます。オープンキャンパス、SNS運用、Webサイト改善、パンフレット制作、高校訪問など、それぞれの施策単体では一定のクオリティが担保されていても、全体として統一感がなく、結果的に志望校選定につながらないケースが少なくありません。
この問題の本質は、「戦略の欠如」ではなく、「戦略の分断」にあります。つまり、施策そのものが不足しているのではなく、それらをつなぐ設計がされていないことが原因です。
では、なぜ大学の広報戦略はバラバラになってしまうのでしょうか。ここでは、その代表的な要因を整理していきます。
広報施策が分断される3つの典型パターン
まず、現場でよく見られる分断のパターンを押さえておくことが重要です。
■典型パターン①:部署ごとのサイロ化
- 入試広報、学生募集、広報課、学部ごとに役割が分断
- SNSは広報課、OCは入試課、Webは外部業者など分散
- それぞれのKPIが異なり、連携が生まれにくい
■典型パターン②:施策単位での最適化
- 「SNSのフォロワー数を増やす」ことが目的化
- 「OC来場数」だけを追いかける
- 「サイトPV」だけが評価指標になる
■典型パターン③:短期施策の積み上げ
- トレンドに合わせてTikTokを開始
- 急にキャンペーンを実施
- しかし長期的なストーリーがない
これらの状態では、たとえ個々の施策がうまくいっていても、「志望校として選ばれる」という最終ゴールにはつながりません。
「ターゲットの誤認」が戦略崩壊を引き起こす理由
もう一つの大きな原因が、「ターゲットの捉え方のズレ」です。
多くの大学では、ターゲットを「高校生」と一括りにしてしまいがちです。しかし実際の意思決定は、もっと複雑です。誰がどの段階で影響を与えているのかを正しく理解しない限り、戦略は機能しません。
特に重要なのは、「誰が最終的な意思決定に影響を与えているのか」という視点です。この理解が曖昧なまま施策を設計すると、接触すべき相手に情報が届かず、機会損失が発生します。
志望校決定のリアル:誰が意思決定に関わっているのか
志望校の決定プロセスは、単純な「本人の意思」だけではありません。複数の関係者が影響を与えています。
以下の図で整理すると、意思決定構造が明確になります。
■志望校決定の影響構造(図解)
| 影響者 | 役割 | 影響度 |
| 高校生本人 | 最終意思決定 | ★★★★☆ |
| 保護者 | 進路の承認・制約 | ★★★☆☆ |
| 高校教師 | 推薦・情報提供 | ★★★★★ |
| 友人・先輩 | 情報共有・共感 | ★★☆☆☆ |
この中で見落とされがちなのが、「高校教師」の存在です。
見落とされがちな“高校教師という重要ターゲット”
高校教師は、進路指導において極めて大きな影響力を持っています。特に指定校推薦や進路指導の場面では、「どの大学を勧めるか」という判断が、実質的に志望校選定に直結します。
しかし、多くの大学では以下のような状態になっています。
■教師向け施策の課題
- 高校訪問は実施しているが、関係構築が形式的
- 教師向けの情報発信が限定的
- SNSやデジタル接点がほぼ存在しない
この状態では、いくら高校生向けの施策を強化しても、推薦や進路指導の場面で選ばれにくくなります。
つまり、広報戦略を設計する際には、以下の3層を必ず意識する必要があります。
■ターゲットの3層構造
- 高校生(認知・興味・志望)
- 保護者(安心・納得・費用)
- 教師(信頼・実績・進学適合性)
この3層を分解して設計しない限り、施策は必ずどこかで断絶します。
第2章|志望校決定プロセスを分解する:大学広報の設計起点
広報戦略を整理する上で最も重要なのは、「志望校がどのように決まるのか」を構造的に理解することです。施策から考えるのではなく、意思決定プロセスから逆算することが不可欠です。
この章では、志望校決定の流れを分解し、それぞれの接点でどのような情報設計が必要かを整理します。
高校生の意思決定プロセス(ジャーニー全体像)
まず、志望校決定までの流れを俯瞰します。
■志望校決定ジャーニー
- 認知
- 興味・関心
- 比較検討
- 志望校化
- 出願
この一連の流れの中で、各フェーズごとに接触する情報やチャネルが異なります。
学年別で異なる情報接触と意思決定の変化
さらに重要なのは、「学年によって行動が変わる」という点です。
■学年別の特徴
| 学年 | 状態 | 主な接触情報 |
| 高1 | 情報収集初期 | SNS・YouTube |
| 高2 | 興味深化 | Webサイト・口コミ |
| 高3 | 比較・決定 | OC・資料・教師 |
この違いを無視して一律の施策を行うと、情報が刺さらなくなります。
「検索行動の変化」が広報戦略に与える影響
従来、大学選びにおける情報収集はGoogle検索が中心でした。しかし現在は、その構造が大きく変化しています。
特に中高生においては、SNSが検索エンジンの代替として機能しています。
■検索行動の変化
- Google検索 → 公式サイト・まとめ記事
- SNS検索 → リアルな体験・雰囲気確認
この変化は、広報戦略に大きな影響を与えています。
Google検索からSNS検索へ:TikTok・Instagramの役割
現在の高校生は、「大学名+口コミ」をGoogleで調べるだけではありません。むしろ以下のような行動が主流になりつつあります。
■SNSでの検索行動
- TikTokで「大学生活」を検索
- Instagramで「キャンパスの雰囲気」を確認
- ストーリーズやリールでリアルな日常を見る
ここで重要なのは、「理想のキャンパスライフが想像できるかどうか」です。
大学を選びたいと思うモチベーションの根源には、「自分がその場所でどんな生活を送るかのイメージ」があります。そしてそのイメージは、現在の自分の延長ではなく、「こうなりたい」という理想像として描かれます。
この理想を具体的に想像できるほど、志望度は高まります。
情報接触設計を誤ると起きる機会損失
ここまでの内容を踏まえると、広報戦略において最も重要なのは「どのタイミングで、どの情報を、どのチャネルで届けるか」です。
これがズレると、以下のような機会損失が発生します。
■よくある機会損失パターン
- SNSが弱く、認知フェーズで候補に入らない
- Webサイトが弱く、比較検討で離脱する
- OC設計が弱く、志望校化しない
つまり、施策単体ではなく、「ジャーニー全体での設計」が必要になります。
■広報戦略設計の基本フレーム
| フェーズ | 目的 | 主な施策 |
| 認知 | 存在を知る | SNS・動画 |
| 興味 | 興味を持つ | コンテンツ・記事 |
| 比較 | 選ばれる理由を理解 | Webサイト・口コミ |
| 志望 | 行きたいと思う | OC・体験 |
| 出願 | 行動に移す | フォーム・導線 |
このように整理することで、バラバラだった施策を一つの流れとして統合できます。
第3章|大学広報戦略チェックリスト①:ターゲット設計
ここまでで見てきた通り、広報施策がバラバラになる最大の原因は「誰に向けた施策なのか」が曖昧なまま進んでしまうことです。したがって、戦略を整える第一歩はターゲット設計の精度を高めることにあります。
重要なのは、「高校生」という一括りの理解をやめることです。意思決定の構造を踏まえ、影響者ごとに分解して設計する必要があります。
ターゲットを「分解」して捉える重要性
大学広報におけるターゲットは、単一ではなく複数レイヤーで構成されています。それぞれの関心や意思決定の役割が異なるため、同じメッセージでは響きません。
■ターゲット構造の分解
| ターゲット | 関心軸 | 求めている情報 |
| 高校生 | 楽しさ・成長・雰囲気 | キャンパスライフ、学生のリアル |
| 保護者 | 安心・就職・費用 | 就職実績、学費、サポート体制 |
| 高校教師 | 信頼・進学実績 | 合格率、教育内容、推薦適合性 |
このように分解すると、「誰に何を伝えるべきか」が明確になります。
高校生/保護者/教師の3層設計
さらに重要なのは、この3層が「別々に存在する」のではなく、相互に影響し合うという点です。
例えば、高校生がSNSで興味を持った大学でも、保護者が不安を感じれば志望度は下がります。また、教師が推薦しない場合、そもそも選択肢に入らないこともあります。
■3層の関係性
- 高校生:興味・憧れを生む
- 保護者:最終判断の安心材料を担保
- 教師:選択肢に入るかどうかを左右
この3つを分断して考えるのではなく、「一貫したストーリー」で設計することが重要です。
ペルソナ設計でやってはいけない失敗
ターゲット設計の現場では、ペルソナを作っているにもかかわらず機能していないケースが多く見られます。その原因は、解像度の低さにあります。
■よくある失敗例
- 年齢・性別だけで終わっている
- 抽象的で誰にも当てはまらない
- 実際の行動や情報接触が反映されていない
本来のペルソナは、「どのように情報に触れ、どの瞬間に意思決定が動くのか」まで具体化する必要があります。
■有効なペルソナ設計のポイント
- 学年(高1・高2・高3)を明確にする
- 普段使っているSNSを特定する
- 進路に影響を与えている人物を定義する
- 不安や迷いのポイントを言語化する
チェックリスト:ターゲット設計編
ここまでの内容を踏まえ、実務で使えるチェックリストに落とし込みます。
■ターゲット設計チェックリスト
- 誰に向けた施策か明確になっているか
- 高校生・保護者・教師の3層が整理されているか
- 学年ごとの違いを考慮できているか
- ターゲットごとに伝える内容が分かれているか
- 意思決定に影響する人物を把握できているか
- SNS利用状況を踏まえた設計になっているか
このチェックを通すだけでも、施策のズレは大きく減少します。
第4章|大学広報戦略チェックリスト②:チャネルと施策設計
ターゲット設計ができたとしても、それを届けるチャネル設計が適切でなければ意味がありません。多くの大学では、ここが整理されていないために施策が分断されています。
重要なのは、「どのチャネルで何を担うのか」を明確にすることです。
Webサイト・SNS・OCの役割分担の整理
広報チャネルは、それぞれ役割が異なります。これを理解せずに運用すると、同じ情報を繰り返すだけになり、効果が出ません。
■主要チャネルの役割
| チャネル | 役割 | 目的 |
| SNS | 認知・興味喚起 | 知る・気になる |
| Webサイト | 情報理解・比較 | 理解する・納得する |
| OC(オープンキャンパス) | 体験・意思決定 | 行きたいと思う |
この役割分担を明確にすることで、施策の連携が生まれます。
SNS戦略の再定義(Instagram/TikTok/Xの使い分け)
SNSは単なる情報発信ではなく、「検索される場」として機能しています。したがって、プラットフォームごとに役割を設計する必要があります。
■SNSの使い分け
- Instagram:写真・リールで雰囲気訴求
- TikTok:短尺動画でリアルな体験を伝える
- X:速報性・情報拡散
特に重要なのは、「理想のキャンパスライフを想像させるコンテンツ」です。これが志望度を高める起点になります。
高校訪問・教師向け施策の設計方法
前章でも触れた通り、教師へのアプローチは極めて重要です。しかし、多くの場合、形式的な訪問で終わっています。
■教師向け施策のポイント
- 定期的な情報提供(進学実績・教育内容)
- 教師向け説明会の実施
- デジタルでの情報接触(メール・資料)
単発の接触ではなく、「継続的な信頼形成」が必要です。
チェックリスト:チャネル設計編
■チャネル設計チェックリスト
- 各チャネルの役割が明確になっているか
- SNSが認知・興味喚起として機能しているか
- Webサイトが比較検討に耐えうる内容か
- OCが志望度を高める設計になっているか
- 教師向け施策が組み込まれているか
- 各チャネルが連携しているか
このチェックにより、「やっているだけの施策」を防ぐことができます。
第5章|大学広報戦略チェックリスト③:統合と改善フレーム
最後に重要なのが、「施策をどうつなぎ、どう改善していくか」です。ここができていないと、どれだけ設計しても継続的な成果にはつながりません。
施策を「つなぐ」ための設計思考
広報戦略において最も重要なのは、「導線」です。各施策が単独で存在するのではなく、一つの流れとして設計されている必要があります。
■理想的な導線設計
SNS → Webサイト → OC → 出願
この流れが自然につながっているかが重要です。
KPI設計とファネル分解の重要性
施策を統合するためには、KPIを分解する必要があります。単一の指標ではなく、プロセスごとに設定することが重要です。
■KPI分解例
| フェーズ | KPI |
| 認知 | インプレッション、再生数 |
| 興味 | エンゲージメント、フォロー |
| 比較 | サイト遷移、滞在時間 |
| 志望 | OC予約数 |
| 出願 | 出願数 |
このように分解することで、どこに課題があるかが明確になります。
広報施策を横断管理する方法
施策を統合するためには、組織的な仕組みも必要です。
■横断管理のポイント
- 共通KPIの設定
- 定期的なデータ共有
- 部署横断の会議体
これにより、サイロ化を防ぐことができます。
チェックリスト:統合・改善編
■統合・改善チェックリスト
- 施策間の導線が設計されているか
- KPIがフェーズごとに分解されているか
- データをもとに改善できているか
- 部署間で情報共有ができているか
- 中長期の戦略と短期施策が連動しているか

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